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    「――さうだな」

    傍にいた赭あから顔の老人が低い声で云つた。

    小谷の店では実にあらゆる品を売つていたが、その中には僅かだが薬品類もあつた。したがつて、高間医院は小谷にとつて多少のお得意先でもあつた。今では、小谷は心易立てに注文のあつた薬品を「店主自から」ぶらさげて房一の所へ持つて行き、そのまゝ話しこむやうになつている。

    二階の部屋だつたので、障子を開けてみたが、空はどこも真暗らで所々にうすく星が光つていた。その静かな黒い拡がりがかへつて不気味だつた。すぐ下の通りではどの家も表の戸を開け放つたまゝ道路に出ていたので、屋内からの明りが方々から路面に流れ、立つて空を見上げている人達の半身を照していた。黒い人頭がざわざわと右に行き左に行きしていた。所々の家の切れたあたりは驚くほど暗かつた。鐘はまだ鳴つていた。それは今、さうはげしくはなかつた。だが、冴えてはつきりと、一所だけで鳴つていた。多分、左手のずつと先きあたりらしかつた。

    馬喰達はそつと肱をつゝき合つた。徳次は「鬼倉」といふ言葉を聞いた。そのとき、彼のきよろりとした、酔つた眼の中には、突然いかにも心外さうな、又跳ね上るやうな色が動いた。彼はちよつとぐらりとし、目をつむり、それからぐつと男の方を挑いどむやうに眺めた。馬喰達は小声で、出よう、と云つた。が、徳次はきかなかつた。もう一度大きく上半身をぐらりとさせ、大声で、

    ――「やあ、おいでなさい。わたし相沢です」

    紛まがふことなく、それは神原喜作だつた。

    「はあ――ふむ、うちへもかね」

    声をひそめて、富田が訊いた。

    小谷は不安げに呟いた。

    「ところがね、大石さんの銃は、あれはマネスターと云ひましたかね、あのマネスターは立派なんだけどなあ。そのわりにあたらないもんですね」

    「おれは!――」

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