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    と、下の男は睨み上げた。

    「すみましたよ。さあ。何でもありませんなあ。ぢき起きられますよ。ごく軽いんですからね」

    「さうですか。それは――」

    と、云つた。彼は殆ど房一の前に立ちはだかつた恰好だつたが、もぢもぢして、何だか自分を小さく感じていた。房一と目を合せると、すぐに外らせて、急にぐつたりとした様子になりながら、

    「あれだね、君は見かけによらない――親思ひなんだね!」

    房一はその玄関土間に足を踏み入れて、

    徳次は急に目くばせをした。

    「はい、若先生に代りに行つてもらへとおつしやいました」

    だが、道楽息子にはちがひなかつたが、それだけでは済まないものがあつた。正文はそのはつきりと理解できないこみ入つた或る物が、単にあらゆるものを切りすててもなほ残る、あの単純な愛情だといふことには気がつかなかつたが、漠然とそれに惹かれた。

    「先生お帰りになりましたかね」

    「――?」

    向ふでも房一を認めたらしい。さう思はれる仕方で、ぐつと速力をゆるめながら、だんだん近づいて来る。はじめは房一の方にこらしていた目を途中で一寸伏せ、又何気ない風にこちらを眺めながら降りて来た。

    房一はその時、これは思つたより以上に面倒だな、と感じた。この場だけを円めればいゝといふわけにはゆくまい、云ひがかりをつけられるかもしれぬ。それから、徳次をこの場から去らせても後で鬼倉の配下の者に狙はれるかもしれぬ、といふことを突嗟とつさに考へた。彼は腹をきめた。そして、相手の顔に目をつけながらゆつくりと答へた。

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